半導体をめぐる米国と中国の対立が、複雑さを増している。
中国商務部などは2025年11月10日、米国へのレアアースなどの輸出管理措置の実施を暫定的に停止すると発表した。停止措置は、2026年11月10日までの約1年間となる。10月30日にew34韓国で実施された米中首脳会談の合意に基づく措置だ。一方、米国側も首脳会談で、中国から米国への輸入品に対する関税を57%から47%に10%引き下げることに合意した。
レアアースは、半導体の製造に欠かせない重要な材料だ。少しは半導体をめぐる米中の対立が軟化するのかと思わせる動きだが、事態はそう簡単ではない。10月30日のロイターによれば、エヌビディアの最先端半導体ブラックウェルの輸出規制が、トランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談で話題になると見られていたが、トランプ大統領は会談後に記者団に対して、「話していない」と述べている。
ロイターによれば、これに反発するエヌビディアのジェンスン・フアンCEOは11月5日、登壇したイベントで「中国が、AI競争に勝つだろう」と述べている。一方で、米国内の報道を確認すると、米国内の専門家らは、ブラックウェルをはじめとした先端半導体の輸出規制を米国が緩和した場合、AI分野における米国の優位が失われる可能性があるとみている。
フアンCEOの発言の意味するところを、丁寧に読み解きたい。
フアン氏はその後、発言を下方修正
フアンCEOはその後、11月5日の発言が注目されたことを受け、「私が、長年述べてきたように、中国はAI分野において、米国のナノ秒後ろにいる。米国が先頭を走り、世界中の開発者を獲得することで、勝利することが極めて重要だ」とXに投稿している。
イベントでの強すぎる発言を下方修正したものと受け止められているが、実質的には米中の差は「ナノ秒」と言っているわけで、米中はほぼ並んでいるというのが、フアンCEOの現状認識だろう。
わかりづらいのは、中国への輸出規制をしていては、中国に追い抜かれるというフアン氏の考え方だ。専門家たちの立ち位置は真逆で、輸出規制をしないと、AI分野で中国に追い抜かれると見ている。
エヌビディアにとって中国は巨大市場だ。フアン氏にとって、巨大市場でのビジネスが規制されている状況は面白くないのは当然だ。では、「規制を続けていては、いずれ中国に追い抜かれる」というフアン氏の発言は単なるポジショントークなのだろうか。
フアン氏の考え方は、次のようなものだ。エヌビディアの先端半導体の輸出を規制していると、中国国内で「中国で代替品を開発するしかない」という考え方が強くなり、先端半導体の開発が加速する。エヌビディアは輸出規制前、中国のAI市場で圧倒的なシェアを誇っていたが、中国企業に代替され、最終的には中国がAI分野で米国を追い抜くというのが、フアン氏の論理だ。
5ナノ半導体の量産を目指す中国
それでは、国産化を目指す中国の現状はどうだろうか。
2023年9月4日のロイターは、ファーウェイのスマートフォンMate 60 Pro に、7nmのチップが搭載されていると報じている。このスマホに搭載されている半導体Kirin 9000Sは、中国の半導体受託製造最大手SMICが製造している。
さらにSMICは、5nmの半導体の製造ラインの構築を進めているという。日本のラピダスが2027年の2nm半導体の量産開始を目指しており、台湾のTSMCが2nm半導体の量産を2025年中に始める計画だ。
TSMCとSMICの現在地を比較すると、台湾や米国側にまだ若干のリードはある。さらに、半導体の製造装置で優位にある日本も、2nmや5nmの半導体の製造に必要な、最先端の製造装置の中国への輸出を2023年7月から規制している。4月には、やはり先端半導体の製造装置で優位にあるオランダも、中国などを念頭に置いた輸出規制を強化している。
このため、中国は型落ちの装置で5nm半導体の量産を目指す状況にあり、量産化には苦労する可能性があるという見方もある。
米国のリードは続くのか

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