AIとの協働時代に見直す「仕事の価値」と「頂点の定義」
10年先にいる「将棋界」から学ぶ 強豪将棋AI・水匠チームが語る“人を超えたAI”との向き合い方
2025年12月19日 08時00分更新
未来が見えない時代にこそ将棋界を見よう
最後に、アトラエのSenior Data Scientistである杉山聡氏が、激動で未来が見えない時代にこそ「将棋界を見よう」と呼びかけた。AIにまつわる議論は様々あるが、「将棋界を見ることで方向性を見出すことができる」(杉山氏)と強調する。
将棋界のエポックメイキングとなったのは、2017年に佐藤天彦名人(当時)が将棋AIのPonanzaに敗戦したことだ。そしてわずか6年後の2023年には、AI研究で急速に力をつけた藤井聡太先生が八冠独占を達成。この間に何が変化したのか。
「この間に様々なことがあったが、特筆すべきは『プロ棋士の価値の変化』。将棋AIの登場前、その価値は将棋の強さであったが、AIに負けたからといって価値は損なわれず、将棋中継もよく見られている。その価値は人同士の対局やドラマに変わっている」(杉山氏)
だからこそ杉山氏は、AIに仕事が奪われる可能性がある時代になったことで、「仕事の価値の本質を、すべての職業で見直す」ことが重要になるという。
また現在、“頂点”を強さと定義した場合に、将棋界の頂点にいるのは、AI研究を大いに活用する藤井聡太六冠だ。
ただ、このAI研究は「すごくつらい」と嘆く人も多いという。それは、膨大な量の変化や手順を覚えて、AIが示す難解な正解を理解する必要があるからだ。「このように強さとしての頂点を目指すのは険しい道。エンジニアでも、AIの方がコードを書くのが上手くなっている。ではどうするかと考えた時、最も重要なのは『頂点の定義』」と杉山氏。
強さ以外の頂点には何があるのか。例えば、将棋界でいうと「人間ドラマ」だ。杉山氏は、人間ドラマでいうと「藤井vs永瀬」「藤井vs伊藤(匠)」は外せないという。他にも「将棋にこめる美学」でいえば佐藤天彦先生、「将棋普及」では多数の棋士、「将棋×YouTube」では藤森哲也先生や中村太地先生を挙げる。「強さ以外にも色々な勝ち筋がある。コードを書くのはAIの方が速いのは決まっている。その上で他に何をするのか?が問われている」(杉山氏)
このように、今ビジネスパーソンがAIと向き合っていることを、将棋界は10年早く体験している。だからこそ将棋界をみようと繰り返しセッションは締めくくられた。










