「Snowflake Intelligence」はRAGの精度に悩む日本企業を救えるか
コクヨ、富士フイルム、JINSがSnowflakeのAIエージェントで挑む“データアクセスの民主化”
2025年12月12日 12時00分更新
富士フイルム:UI開発の省力化により、PoCを高速化し、コンテキスト最適化に注力
医療や半導体、オフィス機器、イメージング(写真・映像)などの事業を展開する富士フイルムでは、AIやデータ基盤の効果的な活用のためにSnowflake Intelligenceに注目。ICT戦略部の三ツ井哲也氏は、同ソリューションの検証を進める3つの目的を実例を交えながら説明した。
ひとつ目の目的は、「AI活用のPoV(価値実証)の早期実現」だ。最新のAI技術をいち早く現場に適用して、その効果を短期間で見極める。そのために生産領域では、「品質管理AIエージェント」の検証が進んでいる。
生産工程の現場では、データに基づく品質管理が行われている。しかし、商品の多角化により、モニタリングする項目や品質の悪化原因は増え続けていた。そこで、品質異常を分析するエージェントを開発し、検証するというサイクルを繰り返しているところだ。「Snowflake Intelligence上で素早くエージェントを切り替え、検証作業の効率化を図れる」(三ツ井氏)
2つ目は、「自然言語の活用によるAIの民主化」だ。専門知識がなくとも誰もがAI活用できる環境を整え、現場の生産性向上につなげる。現在、事業運営の領域では、売上データの解析・レポート作成・課題抽出を支援するエージェント、営業の領域では、ターゲティングや施策立案を支援するエージェントの技術実証が進んでいる。
ポイントは、Snowflake Intelligenceによってインターフェースの開発が省けることであり、「データモデリングやセマンティックレイヤー、プロンプト設計といったコンテキストエンジニアリングに注力できる」(三ツ井氏)という。
最後の目的は、「セキュリティレベル維持の効率化」だ。データ基盤やUI層、アプリケーション層が統合されているため、AI活用においても一貫したアクセス制御を維持できる。
三ツ井氏は、「すべての目的を達成できたわけではないが、今後のSnowflake Intelligenceの進化と共に検証を継続し、ユースケースを拡大していくに十分な結果を得られている」と語った。
ジンズ:売上分析AIの開発期間を大幅短縮、データカルチャーの基点に
最後は、アイウェアを手掛けるジンズ(JINS)の事例だ。同社は2024年に“AI元年”を宣言。AI活用を推進するための施策のひとつが、Snowflake Intelligenceによる「売上分析エージェント」の開発である。
同社はこれまで、Snowflakeから8種のスプレッドシートを出力し、国内約550店舗の売上データを分析していた。しかし、分析に時間がかかり、属人化も進んでいたため、AIによる解決を構想する。AI&データサイエンス部の川嶋三香子氏は、「データの収集から分析、示唆出しまでをAIに任せて、人間はアクションに専念する。さらには対話型での実現を最終形とした」と語る。
最初のステップとして、定型レポートに対して生成AIが回答する仕組みの検証に着手したが、その最中にSnowflake Intelligenceが登場する。最終形とする対話型を前倒しで構築でき、非エンジニアでも短期間でエージェントを開発できることから、同サービスの利用に切り替えた。
現在、売上分析エージェントのPoC中であり、店舗運営を統括する営業部での試用を進めている。評価は総じてポジティブで、データアナリティクスの知見がなくても、人と同様の分析結果が得られることに手ごたえを感じているという。課題は処理速度であり、会議になどで即応性高く利用できるようカスタマイズを進めていく予定だ。
開発で工夫した点は、分析の順序や評価基準など独自の「秘伝のタレ的」(川嶋氏)なルールを学習させ、精度を高めているところだ。その他にも、想定質問に基づく仮想テーブルやSQLの事前定義によって、回答スピードを上げる工夫も凝らしている。
今後は、国内営業部内での本格展開を進めつつ、海外事業や他部門への横展開を目指していく。川嶋氏は、「データアナリティクスの知見がなくても利用できることから、ジンズのデータカルチャーの基点となる。データ基盤を継続して整備し、組織全体でリテラシーを向上させながら、データに基づく意思決定ができる状態へと進化させたい」と締めくくった。














