暗黒物質(ダークマター)の謎
宇宙を語るとき、常にその中心にありながら、私たちの目には見えない存在がある。それが暗黒物質(ダークマター)だ。
過去100年近くにわたって存在が示唆され、宇宙の質量のおよそ85%を占めるとされるこの“見えない存在”は、現代の物理学が抱える、最大級の未解決問題のうちのひとつである。
東京大学大学院理学系研究科・戸谷友則教授の最新の研究は、この謎の核心に、これまでで最も直接的に迫った可能性がある。
同チームが、フェルミガンマ線観測衛星の15年分のデータを解析した結果、天の川銀河の中心方向から、20ギガ電子ボルト(GeV)付近で強く輝く“ぼんやり広がったガンマ線”が検出されたというのだ。
結論だけを言えば、これは、暗黒物質が対消滅して、ガンマ線を放った痕跡“かも”しれない。
“見えない”のに、なぜ存在がわかる?
今回の研究がなぜ革命的なのか、そして何がまだ“不確か”なのかを理解するために、少し背景を遡ってみよう。
暗黒物質は光を発しない。電磁波では直接観測できないため、「見えない物質」として知られる。
しかし銀河が回転するスピードや、銀河団がまとまって存在できる理由、宇宙初期の痕跡とも言われる「宇宙マイクロ波背景放射」といった観測を加味して総合的に考えると、「可視物質だけでは説明できない追加の質量」がどうしても必要になる。
この目には見えず、現代の科学では直接観測する方法がないものの、存在を仮定しなければ多くの宇宙現象を説明できない“何か”が暗黒物質だ。
暗黒物質の候補は数多いが、なかでも長年、筆頭候補とされてきたのがWIMP(Weakly Interacting Massive Particle) と呼ばれる新種の粒子だ。
WIMPの質量は陽子の数百倍とされ、ほかの物質とはほとんど相互作用しないものの、まれに粒子同士が衝突し“対消滅”を起こす。そしてその際にGeV級のガンマ線が出ると推測されている。
つまり、ガンマ線は「暗黒物質が残した“痕跡”である」とも言える。

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