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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第364回

暗号資産、金商法で規制へ 何が変わる?

2025年12月02日 07時00分更新

文● 小島寛明

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 暗号資産(仮想通貨)を金融商品取引法で規制する方向がまとまった。

 2025年11月26日、金融庁の諮問機関である金融審議会が、暗号資産制度に関するワーキング・グループの報告書案を公表した。

 現在は、日本の暗号資産は資金決済法で規制されている。2017年4月に施行された制度で、ネット上で営業している仮想通貨の取引所に対して、「暗号資産交換業者」として金融庁への登録を義務づけた。

 この登録制度のスタートで、ある程度投資家の保護が図られることになり、暗号資産は、日本でも投資の対象として広く認知されるようになった。日本暗号資産等取引業協会によれば、2025年7月、ビットコインの保有額は3兆円を超え、2018年9月の統計開始以降で最多を記録した。

 「持っておけば値上がりするかも」という期待感から、暗号資産は投資の対象として広く知られるようになったが、ネット上やSNSには詐欺を疑いたくなる広告も増えている。このため、暗号資産を株や国債、社債、投資信託といった金融商品のひとつに位置づけ、さらなる投資家の保護や、交換業者などに対する情報の開示を義務づけることになった。

 法改正が実現すれば、暗号資産の法律上の位置づけが大きく変わることになるが、一般の投資家にとってはどのような変化が起きるだろうか。

情報の開示義務の強化

 暗号資産交換業者や暗号資産を発行する事業者がユーザーに対して開示する情報は、かなり増えることが予想される。

 たとえば、東京証券取引所に上場している企業は、株価に影響する可能性がある情報については、開示する義務がある。適時開示情報閲覧サービスというサイトがあり、毎日、上場企業が配信した様々な情報が掲載されている。開示される情報は幅広く、四半期決算の内容や、会社を買収した際の報告、商業施設が店を閉めるといった情報を閲覧できる。

 さらに、暗号資産そのものに関する情報の提供も強化されそうだ。暗号資産の発行時にホワイトペーパー(プロジェクトの説明書のような文書)が公開されるが、ワーキング・グループの報告書は、文書の内容と実際のコードには「差があることが多い」と指摘している。

 このため、一般の投資家にとっては、かなりの知識がないと、暗号資産ごとの性質や機能の違いを理解することが簡単ではないという現状がある。金商法で暗号資産を規制する制度変更にともない、暗号資産の内容をわかりやすく、正確に記述することが義務づけられることになる。

だれが情報を提供するのか

 暗号資産の代表格であるビットコインやイーサリアムは、中央に管理者がいない。ネットワークの保守やアップデートを担う人たちは存在するが、あくまでも有志のボランティアたちの集まりという位置づけだ。

 トヨタ自動車の株はトヨタ自動車が発行するため、株価に影響する経営上の決定などについては、トヨタ自動車が責任を負う。しかし、ビットコインやイーサリアムには、発行者や管理者がいないことになっている。

 このため、取り扱っている暗号資産について、詳しいホワイトペーパーなどの文書をつくり、特定の暗号資産にセキュリティ上の懸念が生じるなど、価格に影響しうる出来事が起きたときには、交換業者が情報を開示することになるだろう。

 反対に、中央に発行者がいる暗号資産もある。たとえば、ゲーム内で取引される、ブリリアンクリプトという暗号資産だ。このゲームのプレイヤーは宝石を発掘し、手に入れた宝石を売って得た通貨は、ゲーム内でアイテムを購入したり、現実の暗号資産の交換所で売却することもできる。こうした暗号資産については、中央に発行者としてゲーム会社がある。この場合は、ゲーム会社がホワイトペーパーや適時開示の義務を負うことになると考えられる。

暗号資産もインサイダー規制の対象に

 暗号資産を金商法の規制対象に位置づけることで、インサイダー取引も明確な規制対象になる。米国では、大手仮想通貨取引所コインベースの従業員が、取引所に上場される暗号資産の情報を、知人や家族に漏らしていたとして、有罪判決が言い渡されている。

 日本でも、大手暗号資産交換業者が、新しい暗号資産の取り扱いを始めるタイミングで、不自然な価格の急上昇が起き、交換業者の関係者の関与が疑われるといった出来事は起きている。今後、暗号資産がインサイダー取引規制の対象になることで、暗号資産の交換業者や、発行する事業者の社内で得た情報を悪用した取引は、摘発の対象になりうる。

 このほか、暗号資産の投資に対する助言などについても、規制の対象になる可能性が高い。暗号資産取引のオンラインサロンで、特定の暗号資産への投資を勧められ、お金を振り込んだが返金してもらえないといった、トラブルが相次いでいるという背景がある。

 9月1日の日本経済新聞によれば、政府は年明けの通常国会で金商法の改正案の提案を目指しているという。今回の法改正は、事業者にとっても一般の投資家にとっても、とても大きな制度変更になることは間違いないだろう。

 

筆者──小島寛明

1975年生まれ、上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒。2000年に朝日新聞社に入社、社会部記者を経て、2012年より開発コンサルティング会社に勤務し、モザンビークやラテンアメリカ、東北の被災地などで国際協力分野の技術協力プロジェクトや調査に従事した。2017年6月よりフリーランスの記者として活動している。取材のテーマは「テクノロジーと社会」「アフリカと日本」「東北」など。著書に『仮想通貨の新ルール』(ビジネスインサイダージャパン取材班との共著)。

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