なぜ中高生では手遅れなのか? 日本のアントレ教育をはばむ構造的タイムリミット
子どものためのビジネススクール「CEOキッズアカデミー」イゲット千恵子氏に聞く
なぜ「小学生」がタイムリミットなのか? 受験競争がつくる思考の壁
――とても実践的ですね。そうしたマインドを、今の日本の子どもたちに芽生えさせるには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。
イゲット:日本の教育は、どうしても「一つの正解」に向かう受験競争が中心にあります。 私は6歳から大学生まで幅広く見ていますが、高校生や大学生になると、すでにその思考に凝り固まってしまっているケースが少なくありません。正直なところ、そこから起業家教育を始めるのは“手遅れ”だと実感しています。子どもたちが無邪気に夢を描き、「できるかもしれない」と信じられるのは、小学生までが限界ではないでしょうか。
象徴的なのが、私たちのクラスでの出来事です。そこでは小学3年生から大学生までが一緒に学ぶのですが、大学生が小学生のアイデアを見て、「すごい! 自分にはそんな発想はなかった……」と本気で驚いているんです。
石井:非常によくわかります。私も自分の塾で、小学生が中学生になっていく姿を見ていますが、学校の成績を上げるためには、どうしても答えが決まっているテスト対策や入試攻略が中心になります。それをこなしていくうちに、子どもたちは「正解を探す」思考に染まっていきます。
イゲット:その通りです。だからこそ、思考が柔軟な小学生のうちに始めるのが、この教育のポイントなのです。特に効果が高いと感じるのは、小学5、6年生ですね。この時期に、「お金の仕組みを知らないとだまされてしまうから、算数をきちんとやろう」といったように、子どもたちが自らの体験として学びの必要性を感じることが重要です。
日本の学校ではグループワークを重視する傾向がありますが、私たちはあえて「一人で考え、自分の意見で突き進む」訓練も大切にしています。周りに合わせるのではなく、自分だけの答えを見つけ出す。その思考プロセスこそが、ゼロからイチを生み出す力の源泉になります。
私が米国の数学の授業で感銘を受けたのは、「5になる答えは、何通り考えられますか?」という問いでした。日本の「2+3=5」という反復練習とは対極にある、答えが一つではない学びです。
このように「これがダメなら、あっちがある」と複数の選択肢を考える知恵を育むことで、CEOキッズアカデミーの卒業生は「お金の作り方が100通り考えられるようになったから、将来がまったく不安ではない」とまで言ってくれるようになりました。
石井:グローバル化が進む中で、そうした力はますます重要になりますね。
イゲット:ええ。しかもそれは「海外に出ていく」場合だけではありません。これからの日本は人口が減り、特にIT分野などでインドをはじめとする国々から優秀な人材が「押し寄せてくる」時代になります。
そのとき、日本の若者たちが彼らと対等に渡り合い、自分の価値をどう発揮できるのか。その危機感を持って、私たちは子どもを育てていかなければならないと考えています。
“先回りしない”愛情が、子どもの未来を拓く
石井:失敗を恐れて行動できない子や、一度の失敗で心が折れてしまう子を、そのように変えていくには、どのような関わり方が重要なのでしょうか。
イゲット:何よりも親のマインドセットを変えることが不可欠です。ただ、日本の保護者のみなさんが抱える構造的な課題も大きいと感じています。本当に忙しくて、子どもとじっくり向き合う時間がない。
子どもの成功体験や失敗体験は、そのときの親の対応一つで意味が大きく変わってしまいます。私たちのプログラムでは、子どもがどんな突拍子もないことを言っても、まず「いいね!」とすべてを肯定するルールがあります。新しい発想や才能は、こうした肯定的な環境から生まれます。
石井:まず行動させてみて、その結果を大人が成功か失敗かで判断するのではなく、次にどうするかをコーチング的に問いかけていく。そうした周りの大人の関わり方が重要だということですね。
イゲット:はい。まさにその通りで、私たちのプログラムでは、大人はあくまで「ファシリテーター」であり、「コーチ」です。子ども自身の中から答えやアイデアが生まれてくるのを、質問を投げかけながら待つ。日本の大人はあまりにも手を出しすぎ、答えを言いすぎです。愛情ゆえに先回りしてしまうことで、子どもが自分で考える機会を奪っているのです。
考えることは訓練なので、1〜2年続ければ子どもは見違えるように自分の意見を言えるようになります。そのためには、保護者との関係構築も欠かせません。「今日はこういうことを学んだので、ご家庭でこんな声がけをしてみてください」といったように、密な連携を取っています。


























