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なぜ中高生では手遅れなのか? 日本のアントレ教育をはばむ構造的タイムリミット

子どものためのビジネススクール「CEOキッズアカデミー」イゲット千恵子氏に聞く

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 近年、日本でもようやく注目され始めた「アントレプレナーシップ教育」の本質とは何か。それは、これからの社会を生きる子どもたちに、我々大人が何を渡せるのかという問いでもある。

 本連載では、元小学校教員の経歴を持つアントレ教育の指導者・石井龍生氏が、業界の最前線を走る「先輩」たちの実践知に迫る。

 第二回の対談相手は、自身も起業家であり、日本では6歳から学べるビジネススクール「CEOキッズアカデミー」を運営するイゲット千恵子氏。同氏とともに、国際的な観点から、日本の未来を持続的な成長軌道に乗せるための教育の課題を掘り下げる。

株式会社CEOキッズアカデミー
イゲット千恵子(いげっと・ちえこ)氏
株式会社CEOキッズアカデミー、Chieko Egged USA Corp. 代表取締役社長。iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。ハワイ教育移住コンサルタント。2003年に3歳の息子とハワイへ教育移住し、2018年に6歳から学べるビジネススクール「CEOキッズアカデミー」を設立。女性起業家ビジネスコンペ『カルティエウーマンズイニシアティブ2021』東アジア女性起業家第4位を受賞。著書に『経営者を育てるハワイの親 労働者を育てる日本の親』『親は9割お世話をやめていい』がある。

株式会社SAIL
石井龍生(いしい・りゅうき)氏
株式会社SAIL 代表。埼玉大学教育学部を卒業後、小学校教諭として5年間勤務。その後、角川アスキー総合研究所でアントレプレナーシップ教育プロデューサーとして、小中学生向けのプログラム開発などに多数携わる。2023年に独立し、塾事業とアントレプレナーシップ教育を掛け合わせた株式会社SAILを設立。元教員という経験を活かし、教育現場とビジネスの両面からアントレプレナーシップ教育の普及に取り組んでいる。

モデレーター:
北島幹雄(きたしま・みきお)
ASCII STARTUP編集長。イノベーションカンファレンス「JID」の総合プロデュースや、各種イベントでモデレーターなどを歴任。起業家インタビューや産官学連携の取材を手掛ける一方、イベント登壇を通じて起業家・技術者・大手企業・自治体をつなぐハブとしても活動。メディアと現場の両面から、スタートアップコミュニティの活性化に貢献している。

6歳からの起業家教育が育む「ゼロからイチを生み出す力」

――アントレプレナーシップ教育の第一線で活躍されている「先輩」指導者の方々にお話を伺い、その本質を深掘りする連載になります。石井さんは、イゲットさんの「CEOキッズアカデミー」に以前から注目していたと聞きます。

石井:はい、”問題解決ができる起業家教育”として、以前から注目していました。クラウドファンディングまでを見据えた出口戦略をはじめ、非常に実践的なプログラムです。ぜひ、CEOキッズアカデミーの取り組みについて詳しくお聞かせいただけますか。

イゲット:CEOキッズアカデミーは2018年に設立しました。 私は米国に22年在住していますが、日米の教育で、最も大きな違いだと感じたのがまさに起業家教育でした。米国では、ビジネスやお金に関する授業が小学校から取り入れられており、この差が経済的な格差につながっているのではないかと衝撃を受けました。

 日本の子どもたちは、基礎教育のレベルが高くポテンシャルも秘めているのに、自己肯定感が低く、新しいものを生み出したり、自らやり遂げたりする力が弱いと感じます。それが非常にもったいない。

 そこで、日本の子どもたちに向けて、ゼロからイチを生み出す力を育成するためのプログラムを自社で開発しました。CEOキッズアカデミーの特徴は、子どもだけでなく、保護者の方も含めて家族ぐるみで思考をアップデートしてもらうことを重視している点です。ベースとなるのは、起業家マインドや人間力、社会貢献力といった土台の部分で、これらは本来家庭で教わるべきものと考えています。

 学ぶ中で、「お金の計算のために算数をもっと頑張ろう」「世界でビジネスをするために英語が必要だ」といったように、子どもたちが自発的に学校の勉強の重要性に気づけるようなプログラム設計を心がけています。

起業家マインドとは「世界中どこでも食いっぱぐれない力」

石井:「起業家マインドを育てること」と「実際に起業すること」は、分けて語られることも多いですが、イゲットさんはどのようにお考えですか。

イゲット:私が重視しているのは、銀行から融資を受ける方法や事業計画書の書き方といったノウハウではありません。 何もないゼロの状態から「明日お金を生み出すにはどうすればいいか?」を考え抜く力、社会の中で自分がどう貢献できるかを問い続ける力です。 つまり、人間力という土台をつくるための起業家教育に力を入れています。

 その人間力の一つが「交渉力」です。例えば、子どもが「これをやりたい」と思った際に、どうすれば親や大人を説得し、協力者になってもらえるか。そうした、自分の想いを実現するための具体的な交渉術もプログラムでは教えています。これはビジネスだけでなく、人生のあらゆる場面で役に立つスキルです。

 日本の経済や人口が縮小していく中で、子どもたちに絶対に必要なのは、どこの国に行っても、何らかの形でお金を稼ぎ、食べていけるマインドセットです。人とお金を集められる力さえあれば、世界中どこにいても食いっぱぐれることはありません。

石井:その考えは、イゲットさんご自身の経験に基づいている部分も大きいのでしょうか。

イゲット:そうですね。私が最初に起業したのは25歳の時、日本で開業したネイルサロンでした。今から約30年前、日本社会では「女性がお金を借りる」ことが非常に難しく、当然のようにお金は借りられませんでした。当時は父に投資してもらって事業を始めました。この経験から、起業家の素質の一つは「人に投資してもらえる人間になること」だと学びました。

 米国では、自己資金だけで起業する人はまれで、「なぜエンジェル投資家を探さないの?」と不思議がられるほどです。良いアイデアと情熱があれば、お金は後からついてくる。この「投資家思考」が社会に根付いているからこそ、若者がどんどんチャレンジできるのです。私自身も米国での事業はエンジェル投資家のおかげでスタートできました。この経験から、子どもたちには「夢は大人になってから叶えるものではなく、今すぐ叶えられるんだ」と伝えています。

CEOキッズアカデミーの中学1年生がクラウドファンディングで商品化した「一石3鳥都道府県パズル」。

【なぜ「小学生」がタイムリミットなのか?(次ページ)】

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