事業承継って「家業がある人」だけのもの?基本を知れば見えてくる、ライフシフトの可能性

文●源詩帆  編集/山野井春絵

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「事業承継」「事業譲渡」「M&A」。なんとなく聞いたことはあるけれど、よくわからず、「家業がない自分には関係ない」と思っている人は多いのではないでしょうか。ミドル世代にこそ知ってほしい、「0から起業しなくても、すでにある事業を受け継ぐ」という選択肢があります。

 前回の記事(シリーズ1/2)では、事業承継コンサルタントの田邊さおりさんにミドル世代女性の強みと成功において重要なことをお話しいただきました。今回は、事業承継の基本と、経営者に欠かせない「ある力」について伺いました。(シリーズ2/2)

事業承継の3つの種類と第三者承継(M&A)の特徴

 「事業承継には、大きく分けて3つの種類があります。

 ①親族承継 親族が会社・事業を継ぐケース。国内では大半を占めています。

 ②社内承継 社内の優秀な役員や従業員が社長になる事業承継です。

 ③第三者承継 これがM&Aと呼ばれるもので、会社や事業を第三者に売却すること。私がミドル世代女性におすすめしているのは、第三者承継(M&A)です」(田邊さん、以下同)

 第三者承継にはどのような特徴があるのでしょうか。

 「第三者承継は最も経済合理性に基づいていて、売り手と買い手の希望が合致すれば成立するシンプルな仕組みです。

 よく『第三者承継は小さい組織の方がスムーズに進むのでは』と聞かれますが、実はそんなことはありません。小さい組織ほど社長が会社そのもので、社長の人脈やキャラクターで成り立っていることが多いです。そのため買い取った側がうまく事業を回せない可能性が高まります。

 一方、大きな組織は役割が分かれているため、誰かが辞めても補充できる。つまり、組織の規模ではなく、『事業の何を見て判断するか』で、承継の難易度が変わるんです」

経営の基盤は「織り込み力」。最高と最悪のシナリオまで想定する力

 では、第三者承継にはどのようなリスクや難しさがあるのでしょうか。田邊さんは、第三者承継の厳しい現実と、それを乗り越える上で経営に必要な力を教えてくれました。

 「実は、日本の9割の第三者承継が失敗しています。第三者承継における失敗とは、『承継が成立しなかった』ことではありません。『期待していたほど事業成績が上がらなかった』ことを指します。

 多くの経営者が、第三者承継自体をゴールにしてしまいますが、株を移したら終わりではない。そこには働く人がいて、取引先があって、それぞれの家族がいる。第三者承継は、異なるDNAを持つ2つの組織を1つにする大掛かりなイベントで、それぞれの組織は、急には転換できません。

 承継の前から、よりよい事業・組織にしていくにはどうすればいいか、長期的な戦略を立てることが重要です。では、その戦略を立てる上で最も重要な力とは何か。

 それは“織り込み力”です。今、目の前で起きていることが全てではないと理解し、最大のメリットも最悪のシナリオも想定して準備をする。それでも想定外の出来事は起きるので、それも織り込んでおく。そのような力が必要です」

自分も家族も変化しやすいミドル世代。だからこそ未来を織り込む

 想定外の出来事は起きる、と聞くと「自分には無理。経営は怖い」と思う方もいるかもしれません。経営者になりたいという夢を持っていても、恐怖心や不安を感じる場合はどのように考えたらいいのでしょうか。

 「不安を感じる方はたくさんいらっしゃると思います。ですが裏を返せば、織り込み力を持って戦略を立てることができれば、どんな事業にも挑戦できる、ともいえます。

 それでも『いつか辞めたくなったらどうしよう...』と不安に思うこともあるでしょう。そんな時は『絶対にやめない覚悟を持つまで経営者にはならない』と考えるのではなく、辞めたその先まで計画しておけば大丈夫。まさにこれが『織り込み力』です。

 実際にどうするかは別として、辞める選択肢とその先の行動を考えておくと不安が軽くなります。特に40代以降の女性は、自分だけでなく身近な人の状況も変化し、見通しが立てにくい時期でもあります。そんな時こそ、事業を次の人に渡せるよう業務を仕組み化するなど、具体的な行動に落とし込みながら経営することもできます。漠然とした不安から目を背けず、納得のいく選択肢を持てるように向き合うことで、将来の不安をぐっと抑えられます。

 人生も、ビジネスも可能性は無限大です。『いつか経営者に』という夢を持ったことがある方は、ぜひこれを機に第三者承継という選択を考えてみてください」

 最後にミドル世代の女性たちへ、田邊さんが伝えたい「年齢を重ねる意義」について伺いました。

 「私は年齢を重ねることを“マチュア(成熟)”と捉えています。ミドル世代というのは若い頃とは違う、本当の自分らしさを開花させられる時期です。視野が広がり、人を受け入れる器がある。これまでの経験あってこその魅力が十分にあります。そんなミドル世代の素晴らしい時間を無駄にせず、自分らしい選択をして、人生をより豊かにしていきましょう」

 田邊さんの話には、これからのキャリアや生き方に悩むミドル世代へのエールが込められていました。

 

Profile:田邊さおり

たなべ・さおり/UnitedVision 合同会社 代表取締役/事業承継コンサルタント
大学卒業と同時に経営難に陥っていた父の会社に入社。経営者として事業を立て直す。その後事業売却、経営顧問、M&A仲介、代表理事を経て、2024年8月に後継者教育・伴走型経営コンサルティングサービス「BATONEER(バトナー)」をスタート。「承継女子」として日々奮闘中。


UnitedVision 合同会社のHPはこちら。

この記事の編集者は以下の記事もオススメしています

過去記事アーカイブ

2026年
01月
2025年
01月
02月
03月
04月
05月
06月
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2024年
07月
08月
09月
10月
11月
12月
2023年
07月
09月
10月
11月
12月