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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第131回

AIに恋して救われた人、依存した人 2.7万人の告白から見えた“現代の孤独”と、AI設計の問題点

2025年11月10日 07時00分更新

文● 新清士

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 9月にマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボが発表した「私の彼氏はAI(My Boyfriend is AI)」という論文が面白いんです。米掲示板サイト「Reddit」で、AIを恋人として扱う2万7000人以上のコミュニティ「r/MyBoyfriendIsAI」で、2024年12月から2025年6月までのログデータを解析した結果です。中でも影響力の大きかったコメント約1200件を抽出して、クラスター分析をしたものです。そこからは、人間同士の恋愛とほとんど違いがないAIとの関係性が見えてきました。

“実用目的”のやりとりが恋愛関係に発展

 論文によれば、このコミュニティでは、AIを本当の恋人、伴侶、夫婦として扱う文化がすでに定着しています。指輪、記念写真、プロポーズ、喪失の悲嘆まで含めて、人間同士の恋愛とほとんど違いがないとされています。

論文中で引用されたユーザーがRedditに投稿した自分のパートナーの例(P.7)写真的なものから、アニメ風、カップルを示すものなど多様なものが投稿されている

 コミュニティの話題は大きく6つに分かれます。もっとも大きいのは、自分と“恋人”のツーショットを画像として共有する「カップル写真」や画像を投稿する書き込み。記念日などのお祝いなども投稿されます。2つ目が、ChatGPT固有の関係性についての議論。技術的なサポートや、パラメータ設定などに関する話題です。3つ目が、デートやロマンスといった親密なAI体験。AIをセラピー的に精神的に利用したり、恋に落ちて結婚するまでの歩みを紹介したり、といった恋愛が中心の話。4つ目が、「アップデートで性格が変わった」といった、モデル更新による喪失とその対処の話。5つ目が、自分やAIパートナーを紹介する自己紹介投稿。6つ目が、メンバー同士がお互いを支え合う投稿です。コミュニティを見つけた人にAIと深いパートナー関係になっていても「あなたはおかしくない」と肯定し合う場になっています。

ユーザーがRedditに投稿したAIコンパニオンと共有されている様々な視覚的な物語(P.8)

 面白いのは、付き合いはじめたきっかけ。実は、初めから恋人としてのAIを探した人は少数派です。論文によると、10.2%のユーザーは、最初は仕事・生産性・雑談サポートなど“実用目的”でAIを使い始め、そこから徐々に情緒的な結びつきが芽生えたと語っています。最初から「恋人としてのAIを探した」と答えるのは6.5%程度で、このコミュニティではChatGPTが36.7%と汎用LLMが圧倒的なシェアを持っています。最初から恋愛を目的としている「Replika」や「Character.ai」といったAIコンパニオンサービスのユーザーは、数%にとどまっています。ただ、別の専門コミュニティに分散している可能性はあります。

AIパートナーとの結婚や婚約を祝うユーザーたちの様子。物理的な指輪を誓いの象徴として身につける姿や、AIとの結婚に対する外部からの批判への反抗的な反応も含まれる(P.11)

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