日本のアニメ文化からスタートした中国の「ビリビリ」
今注目したいのは本格的なハードウェアの「作ってみた系」
中国で人気のビリビリ動画について、使ったことがある人はもちろん、名前くらいは聞いたことが人はさらに多いだろう。ビリビリというサービス名は「とあるシリーズ」の「御坂美琴」のあだ名から取られていて、当初は日本のアニメや動画が多かった。近年は中国のコンテンツも増えたが、正式ライセンスを受けた日本のコンテンツも多く配信されている。
ビリビリの今は、都市部の学生に人気のプラットフォームである。趣味や学問のジャンルの数だけ動画があるが、中でも若者に人気のコンピューター、ソフトウェア、自作系のユーザーニーズは高いと中国では報道されていて、興味深いIT系動画は続々とアップされている。
つまり「作ってみた系」が豊富という点がビリビリの特徴の1つなのだ。ユーザーは仲間のようなもので、ユーザー同士が互いを認め合っていて、クリエイターとユーザーとが交流することで繋がって学びあう関係が構築しやすいと言われている。
だからこそ、簡単すぎる工作や、難しすぎる説明には厳しい空気感もある。中国の他の動画サービスにはない独特な雰囲気で、変わった製品を開発したり発明したりすれば、多くの人が共感して喜んでくれる土壌があり、さらにビュー数に応じて報奨金がもらえるシステムもある。ビリビリは中国の数ある動画サービスの中で、ユーザーを増やしつつも特殊な立ち位置を維持している。
AIロボットや超小型コンピューター
さらにラズパイ対抗の学習用の開発キットまで作る天才少年
というわけで、そんなビリビリらしさであふれた事例を紹介しよう。
まず紹介したい配信者が「稚暉君」だ。彼の名前を検索すると日本語サイトでも紹介されるほど話題になっていて、ファーウェイによる若手研究者を超高給で雇用する「天才少年プロジェクト」に抜擢。その後ファーウェイは退社し、AIロボット「neZHa」をビリビリに公開。人工知能(AI)ロボットプロジェクト「智元機器人(Agibot)」を立ち上げ、さらにそれをベースにスタートアップ「上海智元新創技術」を起業し、設立後わずか4ヵ月でユニコーン企業の仲間入りをした。
稚暉君は、数多くのプロダクトを作っては、ビリビリにアップしてきた。その代表的な製品の1つに、コイン大程度の面積(厚みはある)の超小型コンピューターがある。稚暉君は超小型コンピューターを自作するにあたり、ハードウェアとソフトウェアをすべて自らデザインした。
SoCにはAllwinner H3を採用。超小型ながら音声アシスタントとして機能し、顔認証処理やウェブサーバーなどさまざまな用途で動作し多くの視聴者を驚かせた。
ハードウェアについては、回路基板から設計し、非常に複雑な6層プリント基板にして、メーカーにプロトタイプを作ってもらっている。チップ、抵抗、コンデンサなどの部品を取り付けていき、さらにガワをデザインし、それを3Dプリンターで作った。ソフトウェアについてはカーネルの設定、デバイスドライバやアプリの開発など、一から開発している。
同氏はその後、親指大の小型透明ディスプレー「Holo Cubic」を開発し、公開すると大きな話題に。Holo Cubicは、天気や時間やビリビリのフォロワー数を表示でき、本体を振ることで表示を切り替えるというもの。オフィシャルな販売はないが、公開されたオープンソースの設計書を元に完成させた人々が100元程度でたまに販売するようになった。
またSoCにAllwinner F1C200sを採用した、組み込み開発の学習に適したLinux開発キット「Planck Pi」をリリース。GitHubでオープンソース化した。またそれ以外の製品では、ロボットや倒れず走行する自動運転自転車を開発している。
アップルが製品化できなかったAirPowerを超える
充電可能&コンピューターになっている机「AirDesk」
続いて紹介するのは「何同学」という配信者。過去にアップルがiPhone Xとともに発表して、結局製品化できなかったワイヤレス充電パッド「AirPower」のような、テーブル型の製品「AirDesk」を開発し、ビリビリで約1000万再生、微博で2500万を超える再生数を記録。約10万ものコメントが投稿されるほどの話題となった。
アップルのAirPowerは対応機器を置くだけで充電できるというもので、これを横長の広いテーブルにしたのがAirDeskだ。しかし、AirDeskは充電するだけではない。Mac miniを組み込み、机自体をコンピューターにして、テーブル上でさまざまな表示を可能にしている。
大きなテーブルの上でスマホの充電を実現するために、テーブルの裏面で充電パッドが自動で移動する仕組みを採用している。
さらにテーブル自体を魅力的にするために全体を透明ディスプレイにした。これによりテーブル上にスマホを置くと自動的に充電され、しかもその周囲がサイバーに光り、充電されているということがわかるアニメーション効果が表示される。
またスマホを置いた周囲だけでなく、決まった場所に充電状況とユーザーが設定したポストイット代わりのタスクリストが表示される。充電パッドは小型なので、2台以上の機器は充電できず、1台充電を終えたら別の機器へとパッドが移動する。
また、テーブルの脚を上げ下げでき、ユーザーが1時間使っていてテーブルを動かさないと、猫のキャラクターが1時間経過したことを伝えてくる。仕事が終わればそれを意味する「下班」を表示するジョークめいたギミックも。この製品が功を奏したのか、同年アップルのティム・クック氏との対談を実現している。その後は起業し、ビリビリだけではなくYouTubeでも「HTX Studio」というアカウント名でガジェット開発系の動画配信をしている(https://www.youtube.com/@HTXStudio)。
自作PC系の配信者では製品の企画まで
背面コネクターの共通仕様を啓蒙
自作パソコン系では「有夢想的阿肯老師」が注目だ。氏はさまざなPCパーツを導入する動画ほか、変わり種ケースのPCケースの開発や水冷システム関連(ハウツーや突き抜けた搭載)の動画を配信。様々なケースを自作したほか、日本のアニメに出てきた建物をそのままPCケース化する挑戦をしている。
また「遠古時代装机猿氏」はハードウェアレビューや自作PCなどのトラブル対策動画をアップする、ビリビリで著名な自作PC系アカウントだ。中国の自作パソコン市場は以前のような勢いはないが、それでも頻繁に動画をアップしては、自作PCファンの興味関心のある話題を提供している。
単にネット上でレビューをするだけでなく、中国各地を飛び回りメーカーと情報交換をするほか、PCパーツメーカーのMAXSUNと共同で、DIY-APEシリーズというマザーボードを開発している。このマザーボードの最大の特長は背面にコネクター類があるというもの。
一見すると表面四方がアルミニウム製のヒートシンクで囲まれていて見た目がよく、その代わりにUSBやSATA、電源などのコネクター類をマザーボード裏側に配置している。裏側にあるために、一般的に流通するケースでは利用できず、専用のケースを必要とするが、MAXSUNやASUS(ASUS BTF)とともに規格を推進しており、ビリビリのアカウントからもしばしば啓蒙活動をしている。
ここでは代表的なクリエイターを挙げただけで他にも無数のクリエイターがいる。ビリビリでの成功者はそれをきっかけに就職したり、起業して資金調達したり、海外に作品を発信したり、企業と提携し商用化したりして次なる道を進む。動画も生き様もまた、参考になるのではないだろうか。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

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