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6月5日から活動(?)している「The Velvet Sundown」

本当に実在するの? 正体不明の“生成AI疑惑バンド”がSpotifyで55万人以上の月間リスナーを獲得

2025年07月01日 12時00分更新

文● モーダル小嶋  編集●ASCII

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“公式”のプロフィール画像。よく見るとオープンリールの穴の形が不均等に見えるが……

 Spotifyに現れた謎のバンド、「The Velvet Sundown」が主に海外で話題を呼んでいます。

 彼らの“作品”として、6月5日リリースの「Floating On Echoes」と6月20日リリースの「Dust And Silence」という2つのアルバムがSpotify上に登録されており、バンドの月間リスナー数は55万人を超えています。1ヵ月にも満たない期間でこれだけのリスナー数を獲得するのは、活動実績のないバンドとしてはかなりのハイペースだそう。

一応、Spotify認証済みアーティストではある

 しかし、The Velvet Sundownが話題になっている理由は、その月間リスナー数によるものだけではありません。彼らの楽曲が……いや、メンバーも含めてバンドのすべてが、「生成AIで作成されたものでは?」という疑惑が持たれているからです。

 まず、公式のアーティスト写真は、生成AIを使用したと思しき不自然な質感のものばかりです。たとえば、Instagramのアカウントには「Us performing a little gig a while ago(すこし前にちょっとしたギグで演奏した私たち)」というキャプションの画像が上がっていますが、「マイクのコードが途中で消えている」「ギターのコードを押さえる指が不自然」「同じステージでアコースティックギターとエレキギターを弾いているメンバーがいるのに、どちらのギターにもケーブル類が繋がっていないように見える」など、奇妙な点が目立ちます。

 また、Spotifyに登録されているアーティスト紹介文にも具体的なことは一切書いておらず、そのプロフィールは謎に包まれています。紹介文のテキスト自体も、欧米圏の人からは「奇妙で漠然とした比喩が使われた、不自然な文章」に読めるらしく、我々が生成AIで作られた文章を読んだときのような違和感を覚えるものになっているそう。

 そもそも、先ほど紹介したInstagramに関しても6月27日に開設されたもので、それ以前のバンドの情報はネット上でまったく見つけることはできません。インタビューやディスクレビューはおろか、メンバーのSNSアカウントなども見当たりません。

 こうなってくると、The Velvet Sundownの音楽そのものに関しても、AI生成の可能性を疑う人は少なくないでしょう。

 ミュージシャンや音楽教育者として有名で、自身のYouTubeのチャンネル登録者数が500万を超えるリック・ビアート氏も、自身の動画でThe Velvet Sundownについて検証しています。

 その動画で、ビアート氏は“彼ら”の楽曲がAIで生成されたものであろうと結論付けた上で、ミュージシャンや演奏家、エンジニアやプロデューサーが受け取るべき報酬を得ていることが正しいことなのか、AIによる音楽をどうやって検出するのか、疑問を投げかけていました。

 SpotifyはAI音楽を許可しているサービスで、AIを利用していることを開示する義務もありません。The Velvet Sundownの楽曲は、匿名のキュレーターアカウントが作成した30以上ものプレイリストで確認されており、Spotifyがリスナーに対して生成する「Discover Weekly」にも登場しつつあります。

 そのため、「収益を稼ぐために、何者かがThe Velvet Sundownの楽曲を入れたプレイリストを大量に作成しているのではないか」という噂もあるようですが、推測の域を出ません。

 The Velvet Sundownの楽曲はSpotifyのみならず、DistroKid(ミュージシャンが音楽をオンラインストアやストリーミングサービスに提供するために使用するデジタル音楽配信サービス)を通じて配信されており、Apple MusicやAmazon Musicでも存在を確認できます。

 生成AIで作り出された音楽に収益が流れることは、実在のミュージシャンたちのストリーミング収益を減らすことに繋がりかねません。また、粗製乱造された音楽があふれることで、リスナーが本当に聴きたい音楽にたどりつきにくくなるリスクもあります。

 今のところ、まったく正体不明のThe Velvet Sundown。バンドにはSpotifyからリンクされた公式(?)のXアカウント(@tvs_music)もあり、それによれば7月14日に新譜(?)として「Paper Sun Rebellion」なるアルバムがリリースされるようです。

 さらにややこしいことに、2025年3月に開設された「@Velvet_Sundown」なるXアカウントもあり、6月30日に「私たちが『AI生成』だという根拠のない怠惰な理論を主張し続けているのはまったくばかげている」「私たちは嫌がらせのために個人アカウントをロックしなければならなかった」などといった内容を投稿しています。

 もっとも、これが“公式”のアカウントかどうかも、簡単には判断できないのですが……。

 実在する人間が作った音楽と、AIで生成された音楽。これらを区別することさえ困難になる時代に、我々は足を踏み入れているのかもしれません。

※追記
The Velvet Sundownの「広報担当者」が海外メディアのインタビューに答え、「メンバーは実在しない」「楽曲は生成AIで作成した」ことを明らかにしました。ところが、この広報担当者が「インタビューで答えたことは嘘」とネット上に投稿したため、事態はますます混沌としています。(7月4日16時)

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