MCAの高額なライセンス料に市場が拒絶反応を示す
MCAのコネクターが下の画像だ。16bitコネクターには16bit幅のカードしか装着できないが、32bitコネクターには16bit幅と32bit幅の両方のカードが装着可能である。またオプションでMatched Memory Extension/Auxiliary Video Extension/Base Video Extensionといったコネクターも用意される。
Matched Memory Extensionは、MCAにDRAM拡張カードを装着する際に、そのDRAMのRefresh Cycleなどを本体のメモリーと同期させるための追加信号が用意されている。Base/Auxiliary Video Extensionは、複数ビデオカードを連携して動作させるための追加信号用に搭載されている
画像の出典は、IBMのMicro Channel Architecture Databook
MCAではまた、部品の実装にはSMT(Surface Mount Technology:表面実装技術)を利用することで実装のコストを下げる、信号の電圧を工夫することでISAと比べて大幅に省電力化を達成する、あるいはバスプロトコルを見直してISAよりも効率的に転送できるようにするといった工夫が凝らされている。
ISAと異なり、特定のCPUのバスプロトコルに依存しない作りとするとか、複数のバスマスターを利用できる(これはISAも可能である)ほか、8chのDMAチャネルが搭載されて最大で同時に8つのデバイスから同時にDMA転送を実行可能など、複数の割り込みのハンドリングをサポートするといった、後で出てくるPCIよりも一部優れた部分もあったりした。
またPOS(Programmable Option Select)と呼ばれる、I/O AddressやInterrupt/DMA Channelの設定をソフトウェア側から変更するための仕組みも搭載された。要するにPlug & Play機能の先取りである。
問題はIBMがこのMCAの仕様の利用には、高額なライセンス料を課したことだ。なにせ互換機の排除のためなので、もちろんこれを安価にするわけにはいかない。ただIBMが見落としていたのは、別にMCAでなくても既存のIBM-PC/ATのソフトウェアがそのままで動作したことだ。
もしも、マイクロソフトがMCAマシンでしか動作しないMS-DOSを供給し、既存のMS-DOSを排除したら、あるいはIBMの目論見が成功したかもしれないが、マイクロソフトがそんな自分のビジネスを自分で縮小するような真似をするわけもなかった。
結局MCAはAT互換機を市場から排除するのではなく、AT互換機の市場からMCA搭載マシンを排除する方向に作用してしまった。責任を取る形で、もともとEstridge氏の上司であり、当時ESDのトップだったBill Lowe氏は辞任。IBMもPS/1やPS/Vといったエントリー向け機種で再びISAを復活させることになる。MCAは引き続き同社のワークステーションやサーバーで使われたから無駄にはならなかったが、PC向けにはほとんど使われずに消えてしまった。
そのMCAが発表された翌年の1988年末に制定されたのが、対抗馬であるEISA(Extended Industry Standard Architecture)である。EISAの技術的な説明は連載107回で説明していて特に補足することもない。要するにISAの32bit拡張と思えばいい。そこでここでは、歴史的背景を説明したい。

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