ライブ公演の翌日に「見逃し配信」提供、限られた時間の中で最高の編集を行うには?

「2.5次元舞台をきれいな映像で届けたい」品質向上にかけるDMM TVの熱意とDropbox Replay

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

提供: Dropbox

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 「2.5次元ファンの方は『きれいな映像で鑑賞したい!』という高い熱量をお持ちです。その期待に応えるために、当社では“1フレームのノイズも見逃さない”ような映像チェックの体制づくりを行っています」

 DMM TVは、DMM.comが展開する総合エンターテインメントサービス「DMMプレミアム」の中核をなす、サブスク型の動画配信サービスである。新作アニメ、ドラマ・映画、オリジナル制作のバラエティなど、およそ19万本のコンテンツを配信しており、DMMプレミアム会員(月額550円)が追加料金なしで楽しめる“見放題”コンテンツの豊富さが特徴だ。

 2.5次元舞台(2.5次元ミュージカル)も、DMM TVにおける人気コンテンツのひとつである。千野田仁氏の率いる映像チームは、2.5次元舞台関連の映像編集を手がけている。

 “夜に公演が終わり、翌日には見逃し配信を開始”といった厳しい時間の制約がある中で、いかに映像コンテンツとしてのクオリティを高め、ファンやコンテンツメーカー(舞台制作会社)からの信頼を獲得していくか。そのために映像チェックの体制と手法を見直し、新たに導入したのが「Dropbox Replay」だった。

DMM.com DMMオペレーションズ本部 デジコンプロセス部 動画配信グループ 映像チームの千野田仁氏(部署名は取材当時のもの)

熱量の高いファンがコンテンツに没頭して楽しめるように

 千野田氏のチームが手がけるのは、公演(ライブ)翌日の「見逃し配信」映像、オリジナルの特典映像、プロモーション用の販促映像、広告映像といった、2.5次元舞台関連の映像編集全般だ。メーカーから受け取った映像を、より高品質な配信コンテンツに仕上げる役割であり、「チーム全体では、月平均で35~40本の映像を編集しています」と語る。

 見逃し配信と言っても、当日ライブ配信された映像をそのまま配信するわけではない。視聴者がストレスなく、コンテンツに没頭して楽しめるように、編集や修正を加えて提供するのだ。

 「簡単な例で言うと、ライブ配信の映像には、開演前や休憩時間(幕間)の映像も含まれます。これらは見逃し配信では不要なので、そこを編集(カット)して、ストレスなく視聴できるようにします。さらに、次回公演の告知映像や、出演者からのメッセージといった特典映像を付け加えることもあります」

 こうした編集作業に合わせて、映像や音声のクオリティチェックと修正も行う。元の映像や音声にノイズが入っているような場合は、別の映像や音声で差し替えられないか、あるいはそのまま配信しても問題ないかといったことを、現場の撮影スタッフやメーカーに確認する必要がある。

 「ファンの方は、やはり自分の“推し”(出演者)をきれいな状態で見たいわけです。わずかなノイズであっても『すぐに直してほしいです』とコメントをいただきますから、それをなくすことがわれわれの仕事です」

 千野田氏らは、明らかなノイズだけでなく、もっと繊細な修正も行っている。たとえば、収録された映像と音声の間に数フレームのわずかなズレがあり、出演者の“口”と“声”がきれいに合って見えないケースがある。通常ならば修正しないようなレベルのズレでも、千野田氏のチームでは許容せず、修正をかけていると話す。

 よりクオリティの高いコンテンツが配信できるように、DMM TVでは何重ものチェック体制を敷いている。まずはライブ配信中に、担当チームがあらかじめ映像や音声のチェックを行う。公演終了後には、千野田氏のチームが数人がかりであらためて全体をチェックする。編集を終えたらメーカーに監修(チェック)を依頼し、そこでOKが出たら、ユーザーの視聴環境と同じ非公開環境(ステージング環境)に載せて、最終的なチェックを行う。

 「当社の『強み』がどこにあるかと言うと、編集や修正を加えた“きれいなコンテンツ”を、翌日にお届けできることだと思います。毎回それを積み重ねていくことで、ユーザー様やメーカー様からの『DMM TVならば間違いない』という信頼感につながるのではないでしょうか」

「翌日配信」という時間の制約の中でクオリティを向上させるには

 このように、DMM TVでは最大限のクオリティ向上に取り組んでいるが、そこには常に「時間」という制約がつきまとうことになる。

 たとえば、2.5次元舞台の見逃し配信の場合、夜の公演が終わって編集作業が始められるのは21時半、22時ごろだ。編集を終えると、次はメーカー側の監修(チェック)が待っている。チェックと編集(修正)が数回繰り返されることを考えると、翌日の配信開始までの猶予時間はわずかだ。その事情は特典映像などの場合でもさほど変わらず、通常は2、3日の間で編集とチェックを終えなければならない。

 この「映像チェック」と「編集(修正)」には多くの関係者が携わる。映像編集の担当者、映像チェックを担当する複数のスタッフ、営業担当者、さらにメーカーの担当者などだ。うまくコミュニケーションをとらなければ、伝達ミスと時間のロスが生じかねない。

 Dropbox Replayに出会うまで、こうしたコミュニケーションには、動画配信サービスやファイルサーバー、そしてメールを使うことを想定していた。社外チェック向けには、動画配信サービスに限定公開でアップロードし、メールでやり取りする。社内の場合は編集担当者がファイルサーバーにアップロードしたものを、複数のチェック担当者がそれぞれダウンロードしてチェックする。そういうかたちを考えていたのだ。

 だが「時間のロス」という観点で考えると、ここにはいくつもの課題があった。

 まず、メーカー担当者にチェックを依頼する場合、営業担当者経由でメール連絡を入れても、チェック完了の返信が届くまで進捗状況が分からない。チェック作業がどこまで進んでいるのか、そもそも連絡が伝わっているのかも分からないまま待つことになる。「この時間のロスが一番大きく、どうにか減らしたかった」と、千野田氏は振り返る。

チェック(監修)を依頼してから返答をもらうまでのリードタイム(待ち時間)が大きな課題だった

 また、修正指示の理解に行き違いが生じると「手戻り」が発生してしまう。修正指示の内容がはっきりしない場合は、修正ミスが起きないように再びメールで確認しなければならない。このやり取りにも時間がかかる。

 社内チェックでは、チェック担当者がファイルサーバーから映像ファイルをダウンロードするのに時間がかかっていた。1人あたり15分、20分程度とはいえ、限られた時間で作業を進めるうえでは、やはり避けたい時間のロスだ。

 そして、課題は時間のロスだけではなかった。公開前のコンテンツを動画配信サービスにアップロードすることは、たとえメーカーの承諾を得られたとしても、知的財産の保護を考えると適切な方法とは言えない。「限定公開」に設定しても、URLさえ分かれば誰でも見ることができてしまうからだ。千野田氏はこの点も強く懸念していたという。

従来検討していた方法では、公開前のコンテンツが漏洩してしまうおそれもあった

考えられる懸念点をすべてクリアした「Dropbox Replay」

 こうした課題に悩んでいたとき、千野田氏は社内の別チームのスタッフからDropbox Replayを紹介された。触ってみたところ、Replayが備える機能で懸念点がすべてクリアされることが分かり、チームでも検証したうえで本番導入することを決めた。

 「まずは、フレーム単位でコメントが残せるので、修正すべき部分の行き違いが起こらず、確実に修正が進められます。また、誰かがコメントを付ければ、ほかのメンバーにもリアルタイムに表示されますし、通知メールも届きます。つまり、営業やお客様からのメール返信を待たずに、編集作業が進められるわけです」

Dropbox Replayならば、フレームでもタイムコードでも確実にフィードバックができる

 限られた時間の中で、並行して作業できる点も大きいという。たとえば、チェック作業中に映像や音声のノイズを発見した場合、チェック作業も続けながら、現場の撮影チームに差し替え用の映像提供を依頼できる。この依頼の際も、Replayで「この部分の映像がほしい」と指定できるので、行き違いが発生しない。

Dropbox Replay導入前/後のフローの違い

 Replayによって、セキュリティ面(コンテンツの保護)の課題も解決できたという。

 「そもそも共有を許可したメンバーしかコンテンツにアクセスできませんし、ダウンロードも禁止できるので安心でした」

 実はDMMグループでは、この2年ほど前からコンテンツ保管/共有のツールとしてDropboxを導入している。もちろん千野田氏も利用しており、Dropboxならば「セキュアに共有できる」という信頼感もあった。

 Replayで書き込まれたコメントは、Replayと連携させた映像編集ソフトに直接取り込んで、そのソフトの画面上で参照しながら編集作業を進めている。修正箇所が多くなると、コメントの見落としによる修正漏れも発生しやすくなる。そうしたヒューマンエラーを防ぐうえで、コメントの取り込み機能は役立っているという。

メーカー担当者にもメリット、すべては「コンテンツ品質の向上」に結実

 Replayの導入によって、千野田氏のチームでは、チェック完了を待つ待ち時間だけでも「15~20%の時間短縮」につながったという。そしてもちろんメーカー側でも、Replayという1つのツール上でチェックを行い、直感的にコメントが付けられるので、より手軽で便利になっているはずだ。

 「こちらがチェックをお願いするとき、メーカーのご担当者様はまだライブ会場にいらしたりもします。Replayならば、そういう現場でもすぐにモバイルでチェックして、簡単にコメントを入れられる。実はReplayの導入後、しばらく使用を中止した時期があったのですが、逆にメーカー様の側から『Replayはいつ使えるようになりますか?』とお問い合わせいただいたこともあります(笑)」

 なお、Replayでは映像のバージョン管理ができるが、千野田氏は「過去にどういう修正を入れたか、履歴が残るのが便利」だと語る。公演の全日程が終了したあと、各公演から選りすぐった映像を編集して「アーカイブ映像」と呼ばれるコンテンツを制作することがあるが、その際に、元映像のどこに編集や修正を加えたの記録が残っているからだ。

* * *

 Dropbox Replayを導入することで、時間のロスを削減し、やり取りの行き違いも防げる。セキュリティ面も安心だ。ただし、それらはすべて「コンテンツをより高いクオリティで提供したい」という、千野田氏らの強い想いを実現するためにある。

 「映像チームのメンバーに共通するのは『クオリティだけは譲れない』という気持ちです。もちろん、映像のクオリティは追求し始めると切りがないものなのですが、限られた時間の中で、ファンの方も、メーカー様も、そしてわれわれ自身も満足がいくものを作り上げたい。そう考えると、やはりReplayがなければ実現は難しかっただろうと思います」

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