NVIDIA日本代表とトレジャーデータ創業者が語る日本の勝ち筋「フィジカル×AIの融合」
XTC JAPAN 2025 パネルディスカッション「AIと半導体の次を読む。グローバルリーダーが占うフロンティア」レポート
提供: XTC JAPAN
2025年2月28日、ベルサール汐留にて、先端テクノロジーとイノベーションの展示カンファレンス「JID 2025 by ASCII STARTUP」が開催された。“イノベーションに関わるすべての人をつなぐ日本の産業を革新するための祭典”をコンセプトに掲げたビジネスイベントとなっている。今回は、その中で共同開催された「XTC JAPAN 2025」において、スタートアップピッチの前に行われたパネルディスカッション「AIと半導体の次を読む。グローバルリーダーが占うフロンティア」の模様をレポートする。
パネルディスカッションに先立ち、モデレーターを務めた株式会社アイティーファーム(IT-Farm Corporation) ゼネラル・パートナーの春日伸弥氏が、「Extreme Tech Challenge(XTC)」について概要を紹介した。
IT-Farmは1999年から活動している日本のベンチャーキャピタルで、これまで世界中のクロスボーダーのスタートアップ約150社に出資している。今回行われる「XTC」は、グローバル課題に技術で取り組む起業家のための世界的スタートアップ・コンテストで、IT-Farmは2020年からパートナー企業として共同で日本大会を運営している。
「XTCのテーマは農業、食料、エネルギー、環境、素材、ITやAIなどの要素技術、教育、バイオ、医療、健康、金融、交通、スマートシティといった人々の生活に関わる分野で事業に取り組まれている企業家を支援しています。XTCはグローバルなスタートアップ・エコシステムとして、世界約120カ国から総計1万社以上のスタートアップが参加しており、日本を含む全世界で20の地域の大会と年1回の世界大会を毎年開催しています。過去9年間で世界大会に出場した企業は7000億円以上の資金調達を達成しています」(春日氏)
XTC JAPANでこれまでファイナリストとなった企業は59社で、それらの資金調達率は6~7割にもなるという。入賞した13社のうち、少なくとも10社が現在、海外で事業を展開している。今回も「XTC JAPAN 2025」の優勝企業は、米国サンフランシスコで11月に開催されるXTCグローバルの世界大会に招待される。グローバルのベンチャーキャピタルによる直接メンターシップのもとで、世界的企業の投資担当者や協業責任者に事業をプレゼンでき、スタートアップが世界で戦う足がかりとなる大会となっている。招待制のクローズドなVIPネットワークのパーティにも参加できるそうだ。
「私たちはXTC JAPANとXTCグローバルが一体となって、世界からの資金調達や世界への事業展開を支援します。世界のイグジットは桁が違います。私たちが過去に出資をさせていただいたトレジャーデータやZoomはそのような桁違いの金額でイグジットを果たしています。ぜひみなさまの目で、グローバル課題に取り組む企業家のみなさまの奮闘ぶりをご覧いただきたい」と春日氏は語った。
NVIDIAの日本代表兼米国本社副社長とトレジャーデータの共同創業者が見据える未来
パネルディスカッションに登壇したのは、NVIDIA 日本代表 兼 米国本社副社長 大崎真孝氏とCarbide Ventures ジェネラル・パートナー 芳川裕誠氏の2人。
芳川氏は日本生まれの起業家で、現在はシリコンバレーに在住。2011年にマウンテンビューにて米トレジャーデータ社を共同創業し、CEOや会長などの要職を務める。2018年7月、英Arm社に米トレジャーデータ社を総額約6億ドル(約660億円)で売却した。
(参考記事:「世界を知る投資ファンド運営者が語る日本のスタートアップが勝つための選択肢」)
「一旦、トレジャーデーターはイギリスのArm社に売却したのですが、その後、半導体とソフトウェアのIPを分けようということになり、そこでまた独立して、私は取締役会長をやりつつ、本業としてCarbide VenturesのVCファンドをオペレーションし、さまざまなテクノロジーに投資させていただいています」(芳川氏)
大崎氏は1991年に日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社し、米国本社に異動後はビジネスディベロップメントを担当。本社勤務を含め20年以上従事した。その後、NVIDIAに入社した。
「約12年前にNVIDIAに入った時はグラフィックスの会社でしたが、あれよあれよという間にAIカンパニーになってきて、私自身も驚いています。私自身はスタートアップを立ち上げた経験はありませんが、ずっとスタートアップ支援をさせていただいています。NVIDIAのインセプションプログラムでは世界で数万のスタートアップをサポートしていて、日本でも400社ほどをサポートしています」(大崎氏)
春日氏:最近、AIやGPU、半導体という言葉をニュースで聞かない日はないくらい注目が集まっています。ChatGPTといったLLM(大規模言語モデル)は文字や画像、動画など、ウェブのデータをAIに学習させる動きが盛んでしたが、そろそろウェブのデータは食い尽くしてしまったとも言われはじめています。では、この先、AIはどのように発展していくのかについて、どう考えていらっしゃいますか?
芳川氏:これまではLLMを活用した言語の解析が中心になっていましたが、これからはロボティクスなども含むフィジカルな世界にAIモデルがくっつくことになると思います。例えば、製造業とAIがくっつけばスマートファクトリーになります。医療などの分野でも注目されています。実は、これから日本の産業が面白くなると思っています。今後、2~3年でフィジカルな世界も、かなり様変わりすると思っています。
大崎氏:ここ3年ぐらいはAIをつくる側、LLMや大規模データセンターといったNVIDIAがAIファクトリーと呼んでいるところに投資が集中していたし、世の中の目も集まっていました。それが今後1~2年で、AIを利用する側がいかにカスタマイズして効率よく使うか、ということが重要になります。そのうちのひとつが、フィジカルAIです。マシンとAIの頭脳を融合することで、今までウェブ上にあったAIが実社会で人々に貢献する時期に来ていますし、そういう動きを日本で起こさないとダメなのではないか、と考えています。
春日氏:フィジカルというお話が出ましたが、何か取り組んでいる事例はありますでしょうか。
大崎氏:一番身近なフィジカルAIは自動運転です。それ以外では、ロボットですね。日本はこれまでロボット大国と呼ばれてきました。今後は、ロボットと頭脳であるAIをつなげる接点を日本の強みにしていかなければならないと考えています。
芳川氏:私も全く同じ感想を持っていて、これからのAI産業では日本の強みが生きてくると思います。逆にいえば、この機会を逃すと、次があるのかと心配になるくらいです。普遍的な使われ方としては、直近では医療だと思います。ゲノム解析と化学のマッチングみたいなものもどんどんAIドリブンになってきています。将来、科学で実験がいらなくなる世界が待っています。その最初のプラクティカルな事例は医療で起こると思っていて、すごく注目してます。
春日氏:フィジカルのデータを扱うようになると、情報量が非常に多くなります。LLMはいわば辞書の中から言葉を選び出すので、有限の話です。しかし、現実の空間では無限の選択肢の中から選ぶことになるので、情報の桁が違います。フィジカルデータを扱うためには、技術的にどういったブレイクスルーを期待していますか?
大崎氏:NVIDIAでは最新の半導体でGPUをつくっていますが、NVIDIAが見据えているGPUはもっともっと大きな機能です。例えば、GPUが乗ってサーバーになり、サーバーが集まってクラスターになり、データセンターになります。そして、データセンターがどんどん分散化されてつながっていきます。AIの処理が大きくなるほど、半導体のチップだけでは語れなくなってきているのです。そして、ソフトウェアも必要です。NVIDIAは半導体メーカーとして知られていますが、実は6割以上のエンジニアがソフトウェアエンジニアです。今後は、これまでのような半導体の議論ではなくて、クラスターとかデータセンター規模の話と、そしてハードだけではなくてソフトも組み合わせて考えることが重要になってくると考えています。
芳川氏:タイムフレームを分けなければいけないと思います。直近、今後5年、10年で世界をリードしていくのはNVIDIAだと思います。一方、その先は量子コンピューターが必ず来ると思います。一昨年と去年で技術的なブレイクスルーが起き、急にタイムラインが引けるようになったのです。汎用のコンピューターとして今のノイマン型コンピューターを量子コンピューターがリプレースするのはまだだいぶ先ですが、例えば限られた科学の領域だったり、シミュレーションの領域のユースケースはもう出はじめています。量子コンピューターの世界はハードウェアの世界です。ここは日本の産業が活躍できる場がたくさんあると思っており、すごく期待してます。
春日氏:日本の起業家に、「ここにもっと積極的に取り組めば面白い」、「ここがいけるはず」といった領域があれば、ぜひ教えてください。
芳川氏:現在の日本のGDPは相対的にシュリンクしています。ピークの1995年には世界全体のGDPの5分の1近くを日本が占めており、その時は日本のマーケットを取れば、ほぼ世界のリーディングカンパニーのひとつになれていました。しかし、いまでは日本のGDPは世界の3%ほど。そうした中で、日本からビジネスを始めていては遅いのです。日本にはエンジニアリングのタレントはたくさんいますから、北米を見て「マーケットを取るにはどうしたらいいんだろう」と、外に向かっていってほしいと思っています。マーケットとしては、「デイワン」から世界を見据えるようなスタートアップが、これからどんどん出てくるといいなと期待しています。
大崎氏:フィジカルAIというと言葉では簡単ですが、実際はなかなか難しい。私がスタートアップを支援している中で、グローバルでも日本でも成功してるスタートアップは現場に入り込んでいます。例えば、工場であれば、工場のラインのそばにスペースをつくっています。現場には今も匠の技術を持つプライドの高い優秀な人たちがいて、一方のスタートアップのコンピューティングの人たちが離れた場所にいると、やっぱりうまくいかないケースが多いです。現場に「場」をつくって、互いに日々議論しながら愚直にものづくり、AIづくりをするということが日本に合っていると思います。
春日氏:最後に、これからグローバルを目指す企業家に、応援のメッセージを一言お願いします。
芳川氏:今、シリコンバレーの日本人コミュニティーは、一丸となって日本から来るアントレプレナーを応援しようという機運が高まっています。みんなプロボノで応援する気満々ですから、あまり怖がらずに来てほしい。みなさんをお待ちしています。
大崎氏:技術はボーダーレスです。だからこそ、XTCのような場を活用して、グローバルにチャレンジすることはものすごく重要です。グローバルで成功して得たものは、日本にも持ち帰ることができます。みなさん、ぜひがんばってください。





































