ライセンス料/ロイヤリティで利益を得るArmにとって
命令セットが自由に使えるRISC-Vは商売敵
そういうArmからすれば、RISC-Vというのは明確に敵である。なにしろ命令セットが自由に使えるので、Architecture Licenseに当たるものは存在しない。もちろんRISC-V IPベンダーからCPU IPを購入すると相応にライセンス料(そのIPを使って設計する権利のコスト)やロイヤリティ(実際にIPを実装した製品を出荷する際にかかるコスト)は掛かるので、その意味では同等と言えば同等だが、RISC-Vの方が圧倒的に安価である。というより、Armが高く設定しすぎていたというべきか。
下の画像は2014年第4四半期のRoadshowスライドからの抜粋だが、チップ内にArmコアをたくさん集積すればするほど、ロイヤリティが跳ね上がる仕組みになっているのがわかる。
RISC-V陣営は、ここがArmの最大の弱点であることをよく理解しているし、機器メーカーがRISC-Vに全面移行はしないにしても、RISC-Vの検討を始めているのは、プランBとしてRISC-Vへの移行でコストが下げられる可能性があるし、「検討している」という事実がArmに対してのライセンス/ロイヤリティの交渉の際のカードに使えるからである。
Armも手をこまねいているわけではない。まず価格については、ライセンス料/ロイヤリティそのものを下げるのは難しいが、とりあえず敷居を下げる方策をとった。Armは以前からUniversity Programとして、大学や教育機関などにCortex-M0というMCUを無償で利用できる権利を提供、これを利用してASICの設計・製造などを行なえるようにしていた。
2019年にこれをDesignStart for Universityとして提供されるCPU IPを拡大、現在はRESEARCH Enablementとしてさらに広範なプログラムを提供している。
これをベースに、一般のユーザー(=企業)向けにもっと簡単にArmのIPを評価、設計してもらうための方法としてAFA(Arm Flexible Access)を2019年7月にスタートした。これは一定金額を支払うと1年間、ArmのさまざまなIPにアクセスし放題になるというものだ。
これはArmでなくRISC-Vなどでもよくある話だが、なにかしらSoCを作りたいと思ったときに、どんなCPU IPを使うのが良いかを検討する必要がある。ただその検討にあたり、シミュレーションを使って性能比較するにしても、そもそものCPU IPがないとどうにもならない。が、先のSingle/Multi Use Licenseの場合は、まずそのIPを買わないと利用できないことになる。
IPベンダーの中には「一定期間無料で使える」という提供をしているところもあるが、だいたい長くても1ヵ月くらいだったりするので、その間に比較ができないと終わりである。AFAに入ると、1年間「ほとんどのIP」を好きなように利用可能である。ちなみに、この「ほとんどのIP」にはCortex-A7XやA5XX、Neoverseなどは含まれていない。現状ではアプリケーションプロセッサーはCortex-A55まで。ただMCUのCortex-Mやコントローラー向けのCortex-Rはすべてラインナップされている。
もっともこれ、自由に使えるのはあくまでも設計が終わってテープアウトするところまでで、それを製造に回す時にはライセンスを契約する必要があり、量産に入って販売する際にはロイヤリティの支払いが必要になるので、実はトータルではそれほど安くなっていないのだが、少なくとも設計を始めるときに大金が必要なくなったのはそれなりに意味がある。
ちなみにMCUだけに限定し、初期費用を0にしたDesign Startや、スタートアップ企業向けに無料にしたAFA for Startupなども最近は追加されている。ただ例えば台湾Andes Technologiesも2019年にRISC-V FreeStart programを開始しており、他のベンダーもこれに似た取り組みを始めているので、ここではそれほど差が付かない。

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