思い出を整理する方法は捨てるだけじゃない。新しい視点で“楽しい終活”を目指す

文●竹林和奈 撮影●伊東武志

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 誰にでも訪れる人生のエンディングを考える「終活」。【捨てる/捨てない】の二択ではなく、形を変えてコンパクトにするという終活片付けメソッドを提唱している小野めぐみさん。幸せな老後へと令和のシニアを導く小野さんに人生の転機を語っていただいた。

終活全般のことをもっと知りたいと思い、「シニアライフカウンセラー」の資格を勉強中。いつか「思い出編集アドバイザー」として終活片付けメソッドを引き継いでくれる人が現れてほしいと考えている。

〝思い〟を切り取る作業はプロ編集者の目線で

 都内某所、ハウススタジオにお邪魔すると、カラッと明るい笑顔で迎えてくれた小野さん。ピンクのシャツがさわやかで素敵だ。小野さんが運営する「思い出編集室」では、遺品整理や生前整理の際の思い出の品をコンパクトにする手伝いをしてくれる。

 小野さんは短大卒業後、銀行に就職。3年ほどで退職し、派遣社員として商社などに勤めていた。その後アルバイトとして入った出版社で、初心者だったにも関わらず書籍編集者デビュー。ベストセラーを出したことで正社員として採用された。

 「メディアファクトリーの前身であるリクルート出版は、意外性を面白がる気風があって、アルバイトの素人に編集をやらせてみたのもその一つ。私は担当作家さんに恵まれました。結果を残せたのはラッキーでしたね」

 その後は長きにわたり書籍編集者として同社で働いていた。途中、家庭の都合で2度退職したが、2度とも復職。出版界はよほど水に合っていたが、3度目の退職を決めたときは、もう会社に戻る気持ちはなかったという。

 「会社の方針に合わせると、私がやりたいことが通らなくなってきてしまったのです。その後はフリーランスの編集者として働こうと思っていました。そこに不安はなかったです。ただ、会社を辞めたあと、父を見送ることになりまして……。私の起業は、写真が趣味だった父が遺した70冊のアルバムをまとめ、1冊のフォトブックを制作したことがきっかけでした」

 家族にとっては全てがハイライトとなる大量の写真の中から、これという写真を選りすぐる能力は編集者時代に培ったもの。アルバム整理をする中で強く感じたことがあるという。

 「どの写真からも父の家族に対する愛情が感じられて、見れば涙と感謝しか浮かばないけど、『この70冊を一生守るからね』とは思うものの、物量的に難しい。そこで、プロの視点で選び抜いた写真を配置し、父の人となりや思い出を綴った文章を添え、書店で売っているような立派なフォトブックを制作しました。10部ほど印刷して、身内に配ったところ大変喜んでもらえたので、作ってよかったです。それと同時に、この困りごとはうちだけじゃないはずだと思い、起業を決心しました」

撮影した写真をPCで細かくチェック。依頼主である編み物作家さんの思い描く世界観をいかにして実現するかが、 編集者である小野さんの腕の見せどころだ。角度一つで編みぐるみの表情が変化するので、細心の注意を払う。

片付けを通じて知った心の浄化作用で小野流メソッドが完成

 退職したときは起業することは全く考えていなかったという小野さんだが、家族のフォトブック制作を通じて、天国の父から人生のお題をもらったような気がしたそう。

 「元々仕事は好きだったけれど、子育てや夫の仕事の都合で中国に帯同することになって、どこか仕事を100%やりきれていなかったなという思いがあって。50代半ばで子育てもひと段落……。やるなら今だと思いました」

 抑え続けていた仕事への情熱が背中を押した。時を同じくして、亡くなった友人の形見分けをしてもらった経験が、小野さんのメソッド完成に繋がるきっかけに。「ふと、私が死んだらどうなるんだろうと考えたんです。私自身、片付けは得意じゃなかったので、夫が私の友人たちに形見分けするのを想像したら、かなり恥ずかしい状態になるのは明らか。一念発起して自分の持ち物を片付けたんです。また当時は、父を亡くしたばかりで鬱状態で、仕事と子育ての両立どころか、どちらも中途半端ではなかったかと落ち込み、ネガティブな考えに囚われていた時期でもありました。夫との価値観の違いによる亀裂が大きく広がり、夫に付いて中国に行ったことで自分のキャリアが中断し、犠牲になったと夫を恨む気持ちが湧き上がり、夫婦仲は離婚を考えるほど険悪でした。けれども、片付けをしていく中で、今の自分の価値観や友人関係などは中国滞在時に培われた部分も大きく、実は夫のおかげで得たものも多い人生だと気づいた。そして心の霧が晴れていったんです」

 大量の物をただ捨てるだけでなく、形を変えてコンパクトにして残すことで心の負担も減る。思い出の品々を整理することには心の浄化作用もある。

 自らの生前整理の体験が元となり、小野さん独自の片付けメソッド「思い出コンパクト術」が確立された。

編み物作家から依頼された絵本制作の撮影中。キャラクターから背景までを編み物で表現するため、撮影にも力が入る。

「人生、成功と大成功しかない」やらない後悔だけはしたくない!

 著書『50代から味わえる!最高のご褒美 人生で一番素敵な片づけ』(三笠書房)は2022年に刊行され、小野さんにとって名刺代わりとなる大切な一冊に。講演依頼も増え、シニア向けの人気雑誌でも取り上げられた。

 「私が会社を続けてこられたのには二つの理由があると思っています。一つは、自分がこれまでやってきたこと(編集業、親の遺品整理や自身の片付け実体験)をアレンジして活かせているということ。もう一つは、人生の終わりにやり残したことを後悔して死にたくないという思いですね。アクションを起こしても結果がどうなるかは誰にもわかりません。私はやらない後悔よりも、一生懸命やったけれど結果は出なかったっていう方がよほどすっきりするのでチャレンジ一択です」

 そして会社を存続させていくのは並大抵ではなく、事業を掘り下げる努力も怠らない。「自社のHP に『終活サポート』と銘打っている以上、もっと終活全般のこチャレンジし続ける理由は至ってシンプル後悔して死にたくないとを知っておきたいと思って、『シニアライフカウンセラー』という資格の勉強をしています。さらに、いつか私のメソッドを受け継いでくれる人が現れるのを期待して『思い出編集アドバイザー』という商標を取得しています。夢は大きくね!(笑)」

 チャレンジ精神の塊のような小野さんの根底にあるのは「後悔したくない」という思い。その思いを支える大事な言葉があるという。

 「編集者時代に取材した某社長さんの座右の銘が【人生、成功と大成功しかない】だったんです。私もすごく気に入っていて、大好きな言葉です。結果的に失敗に見えることでも、絶対に学びがある。自分にとっては成功か大成功しかないって思っているから、これからもチャレンジし続けたいと思っています」

Profile:小野めぐみさん(終活サポートサービス)

 おの・めぐみ/思い出編集室 エグゼクティブプロデューサー、株式会社小瑠璃舎代表取締役。1962年、東京都生まれ。短大卒業後、大手銀行などを経て出版社に勤務。のちにフリー編集者として活動。2015年、父親の遺品整理をきっかけに独自の片付けメソッド「思い出コンパクト術」を考案。新しい終活サポートサービスとして、フォトブックなどの制作を手掛ける「思い出編集室」を立ち上げた。著書に『50代から味わえる!最高のご褒美 人生で一番素敵な片づけ』(三笠書房)。

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