ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第530回
HP 9000シリーズでワークステーションのシェアを獲得したHP 業界に多大な影響を与えた現存メーカー
2019年09月30日 12時00分更新
性能を強化したモデルを次々と投入
1987年には、基本的なスペックはModel 320と同じ(メモリーは標準で4MBに増量された)ながら、イーサネットを搭載するとともに、内部のI/Oバスを32bitに強化したModel 330に加え、CPUを25MHz駆動に高速化、メモリーを8MBに増量したModel 350を投入。
同時にローエンド向けに16.67MHz駆動のMC68020に4MBのメモリー、モノクロディスプレーを組み合わせたModel 318MをModel 310と大して変わらない価格(5140ドル)で提供するなど、競合メーカーの製品に対応して全体的な性能の底上げを図っている。
ちなみにModel 318Mと同じく低価格を狙ったはずのModel 319Cは、構成的にはModel 318Mにカラーディスプレーを組み合わせた格好だが、価格は9785ドルと跳ね上がったのは、まだこの当時高解像度(といっても1024×768ピクセルだが)ディスプレーが高額だったからである。このディスプレーはHP 98785Aという名称で、単体価格は3615ドルだった。
1988年には、MC68030を搭載したModel 360とModel 370も投入された。Model 360は25MHz駆動のMC68030+MC68882(FPU)の組み合わせで、性能はおおむね5MIPS。上位のModel 370は33MHz駆動で7MIPSとされた。
ただこのころになると、例えばSun MicrosystemsはSPARCチップの製造を完了しており、翌年にはSPARCstation 1を投入しているし、MIPSのR2000を搭載したワークステーションは1986年ごろからぼちぼち出てきており、1988年にはR3000の登場と、これを搭載したワークステーションの急増という状況になっており、ややMC68030では分が悪くなっていた。
その1988年にMC68030を搭載したNeXTcubeを市場投入したNeXT Computerなどもあったし、1988年9月に投入されたAppleのMacintosh IIxは16MHzのMC68030だったので、致命的に性能が低いわけではなかったのだが。
しかし、HP 9000のMC68040への移行は少し後になった。まず1989年に、Model 360をベースにしたローコスト版のModel 340が追加され、次いでMC68030+MC68882構成ながら50MHz駆動となったModel 345とModel 375が投入された。
Model 375はハイエンド向けで、8MBメモリーに19インチのモノクロディスプレー込みで2万1995ドル、Model 345はローエンドモデルで4MBメモリーと19インチモノクロディスプレーのセットで8995ドルとなっている。
MotorolaのMC68040を搭載した
Model 380を出荷
1990年にはやっとMotorolaがMC68040の出荷を開始。これを搭載したのがModel 300シリーズの最終製品であるModel 380である。40MHzのMC68040を搭載し、1991年に出荷された。
なぜ1990年に出荷されなかったのかというと、Apollo Computerの買収により、製品ラインの統合が必要になったためである。
この買収によって、旧ApolloのDomain/OSが動作するワークステーション製品ラインを急遽構築する必要ができた。1990年はこの作業に忙殺された結果として、Model 380の出荷が遅れたのではないかと思う。
Domain/OSが動作する
HP 9000/400シリーズ
そのApolloのDomain/OSが動作するモデルが、HP 9000/400シリーズである。発売当初はHP Apollo 9000 Series 400などと称されていた。細かく言うといろいろなモデルがあるが、大別すると以下の構成がある。
| HP 9000/400シリーズのラインナップ | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 型番 | CPU | メモリー | ||||
| Series 400 Model 400 | 50MHz MC68030 | 8~32MB (後に出た400tは8~128MB) |
||||
| Series 400 Model 425 | 25MHz MC68040 | 8~64MB | ||||
| Series 400 Model 433 | 33MHz MC68040 | 8~128MB | ||||
幸いだったのは、Prismを搭載したDN10000以外のApolloの製品はすべてMC68000系を利用しており、HP 9000/300シリーズと基本的な部分では一緒だったことだ。
もちろんファームウェアやグラフィックスを含む周辺機器などは異なるため、ApolloのDN4500(33MHz駆動のMC68030を搭載)でHP-UXが動くかと言われればそんなことはないのだが、逆にハードウェアの側で両方のOSが動くように配慮するとともに、新規のドライバーさえ追加すれば両方のOSを動かすことは(同時にではなくあくまで排他的にであるが)不可能ではなく、こうした対応がとられたのがHP 9000/400シリーズということになる。
ただHPはDomain/OSを長期間維持したり、HP-UXをこれで置き換えたりするつもりはなく、随時Domain/OSの顧客をHP-UXベースに移行させていくつもりであった。
それもあり、Domain/OSは最後まで68Kのラインナップのみのサポートとされ、PA-RISCへの移行はなされなかった。Domain/OS自身も1992年に最後のSR10.4がリリースされて、そこでサポートが終了している。
もっと悲惨だったのはDN10000で、こちらはそもそも既存のDomain/OSとは命令セットのレベルで異なり互換性がなかったため、OSバージョンの最後に“.p"”付く別のDomain/OSが用意されるが、出荷開始の1989年11月から、最後の対応OSであるSR10.4pがリリースされた1992年3月まで、2年4ヵ月でしかない。
こちらはHP-UXへの移行も大変だったと思われるあたり、もうDN10000を使っていた顧客は2年そこそこで環境を新たに作り直す羽目になったのではないかと思う。

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